皆さんは東大生物についてどんな印象をもっているでしょうか?
などなど東大生物、ひいては生物という科目について否定的な意見が世間ではよく聞かれます。
しかし、それは実際に東大を生物で受験し合格した人が言っているのでしょうか?もしそうではないとしたら、そんな信頼性の低い情報を安易に鵜呑みにしていいのでしょうか?
この記事では、東大を生物化学選択で受験した現役東大生である筆者が、東大生物についてのリアルな情報を網羅的にお伝えしようと思います。
・東京大学の理系学生が執筆
・東大理科の選択科目では生物を選択
・東大首席など100人以上の東大生に勉強法をインタビュー
東大生物の基本情報
まず東大生物について考える上で、前提となる基本知識をおさえておきましょう。
構成
近年は大問がⅠ Ⅱ Ⅲのように分割されることも多くなり、実質大問が6〜8個で構成されていると言えるかもしれません。
またそれぞれの小問は一般的には、知識系選択問題、知識系論述問題、実験考察系選択問題、実験考察系論述問題に分類できます。
基本的な知識を問うているものもあれば、問題のテーマとして解説文の中で示されている実験から考察して述べなければいけないものもあり、それぞれ対策が必要になっています。
難易度
実際、知識問題などは医学部に代表されるような重箱の隅をつつくような問題はほとんどなく、教科書の範囲で常識的な問題が出されます。
ただ東大生物は実験考察の比重が大きく、他の難関大学の過去問とは毛色の違う、いわゆる“東大生物っぽい”実験考察が多いため他の大学の過去問で対策するのは難しい面があります。
また、これは生物という科目全体に対して言えることかもしれませんが、東大生物は制限時間に対して問題数が多いのも特徴的です。東大の理科は選択した2科目を合わせて150分で解ききらなければならず、時間配分も極めて重要な要素ですが、生物選択の受験生は生物に時間がかかってしまうことが多いため、もう一方の科目との時間調整も自分の得意不得意と相談しながら考えなければいけません。
生物化学受験生①・・・生物80分→化学70分
生物化学受験生②・・・化学65分→生物85分
物理生物受験生①・・・物理60分→生物90分
このように考えると、東大志望の生物受験生は東大の過去問や東大模試で実践的な練習をする必要性が非常に高いと言えるでしょう。
学生「東大物理の対策の仕方がわからない」「東大物理対策におすすめな参考書が知りたい!」 といった悩みをもつ受験生は多いでしょう。 この記事では物理が1番の苦手科目だったもの[…]
平均点
東大では合計得点の平均しか公式には発表されていません。従って科目別の平均点は非公式なものとなりますが、合格者の開示得点を有志で集計したものがあり、以下のようになっています。
2020東大生物合格者平均点(非公式)
理科1類 | 36.8 |
理科2類 | 37.5 |
理科3類 | 39.5 |
理科全体 | 37.5 |
参考までに同年の物理、化学、地学における理科全体平均は以下の通りです。
物理 | 38.4 |
化学 | 35.1 |
地学 | 41.0 |
生物 | 37.5 |
目標点
入試ですので他の科目との兼ね合いや自分の得意不得意によって定めましょう。
東大の理科は1科目満点が60点ですので、50%ということになります。これより低い点数でも他の得意科目があればもちろん挽回は可能ではありますが、全科目合わせた合格者最低点が理1,2では50%前後、理3では65%前後であることを踏まえると、生物で30点というのが足を引っ張らないギリギリのラインだと思います。
各大問半分よりは多く点数を取る、もしくは各大問で小問2,3個分は取れなくても大丈夫、と考えるとよいと思います。
50/60ですのでかなり難しいと思います。東大生物が論述問題メインであるということ、時間制限がかなり厳しいということを考えると、このくらいがコンスタントに取れる点という意味で取り得る最高得点でしょう。満点を目指しつつ時間内で50点くらいに落ち着かせるというイメージがよいかと思います。
生物に関してはこのレベルまでくるとそれ以上に上げる努力をするより、他の苦手科目を上げる努力をした方が楽ですので、このくらいまで力をつけることができたら他の科目の勉強に手を付けるようにしましょう。
生物&化学は不利なのか
東大理科では、物理、化学、生物、地学の4科目から2科目を選択して、合わせて150分で解くという形式になっています。どの2科目を選択したとしても理科という同じひとくくりであるため、たとえば物理化学を選択した受験生と生物化学を選択した受験生が同じ合格最低点を基準にして合否が決定してしまいます。
そのためよく「物理は高得点が出やすいから有利だ」とか「生物は論述問題が多くて点が伸びにくい」という科目の比較が強く出やすいです。実際平均点や最高得点などで社会科目よりも科目ごとの差が大きく、数字として見やすいことも要因かもしれません。
では生物選択は不利なのか?(東大理系受験生のうち圧倒的多数が物理化学選択と生物化学選択のため、「生物選択」「物理選択」と言った場合の前者は生物化学選択者、後者は物理化学選択者とさせていただきます)と考えるわけですが、試験として見たときに有利なのは物理選択かと思われます。
と言われてしまうかもしれませんが、実際には
①東大模試の得点分布などでも高得点層は物理選択の方が多い
②試験の性質としても論述問題が多いため、部分点を稼ぐという意味で国語のような点の取り方をすることが多い
③②と同じ理由で時間がかかりやすく、もう一方の理科科目を解く時間を圧迫してしまいがち
などいくつか理由は挙げられます。これらの理由で生物は点が伸びにくいということがありますので、試験単体で見たら生物選択よりも物理選択の方が有利に思えます。
しかし一方で、「選択をどうするか」という観点で考えると違う考えも出てきます。
そもそも東大で生物を専攻したいと考える人であれば生物を選択するのがよいと思いますし、知識を覚えるのが得意だとか、論理的思考や情報処理が得意だという人であれば東大生物に適していると考えられます。
もし東大理系を考えているのであれば、東大生物の特徴を踏まえた上で自分の性質なども加味して選択して頂ければと思います。
東大生物の傾向と対策必須分野
続いて、近年の東大生物の傾向とそれを踏まえた上で特に対策しておくと有利であると筆者が判断した対策必須分野の解説です。
東大生物の傾向
東大生物では前述の通り、他の難関大学に比べて重厚な論述問題が含まれている影響で時間制限が厳しいということがよく言われています。
そのため東大生物の時間的な難易度を語る上で論述の行数に注目されることが多いのですが(東大生物で出題される論述問題では多くが行数指定されており目安の分量はあらかじめ示されている) 、近年に絞ってみれば2019年度入試までは減少傾向にあります。
実際入試問題でもそれ以前の年度の東大生物では論述問題として出題されていたであろうと思われている箇所が、選択問題として出題されているなど分量減少の流れはありました。
しかし、2019年度以降は21〜23行、34〜36行と論述行数が増加していることを踏まえると、今後も東大らしい重厚な論述問題は健在であることが伺えます。
続いて、すでに何回か話に出ていましたが、東大生物らしさの象徴とも言える実験考察系の問題についてお話しします。
東大生物では第1問が動物系、第2問が植物系、第3問が生物環境系の傾向があると言われていますが(そこまで学習上重要なわけでもありませんのでこちらは参考程度にとどめておきましょう)、それぞれの大問はなんらかのテーマに沿った1〜3個の実験についての問題となっていることが非常に多くなっています。
もちろんその中で実験に関わる範囲の知識を問う問題はいくつか含まれますが、大きなウェイトを占めるのが実験考察問題です。
と思った方も多いかもしれませんが、そういった方は是非1問適当な東大の過去問を解いて答え合わせをしてみてください。
東大生物の最も特徴が、問題文の情報の多さと問題を解く上でのその重要性です(ここで言う問題文とは設問文のことではなく実験の様子などが解説されている文章のことです)。
答え合わせをしていて気づく人も多いかもしれませんが、東大生物では設問の答えのヒントとなる事象や答えの一部が、問題文に散りばめられていることが非常に多く、実験の解説をしている問題文の場合では特にその傾向が強いです。
そのため受験生には短時間で問題文の情報を解析、処理し、設問文で求められている形に置き換えて考える能力が必須と言えるでしょう。
東大生物の対策必須分野
東大生物では複数の分野を横断したような問題が多いため、各分野の知識に関して自由自在に頭から出せる状態にしておかないと歯が立ちません。
その中でも、以下に述べる分野はこれまで何度も出題されてきたことから、今後も形を変えて出題される可能性が高いため、受験生は対策が必須となります。
植物
一口に植物と言っても、光合成や呼吸、植物ホルモンや環境適応など様々ありますが、全ての分野で重要事項が多く、全てをおさえておかなければいけません。
東大生物では第2問が植物に関する問題であることが多いため、植物に関しては苦手分野を作らず全てをある程度固めておくことで、第2問の得点を安定させることができます。
また実験に関しても、植物に関してのものが教科書にも色々と載っていますので、隅々までよく確認して、実験内容を覚えるくらいの勢いで勉強しましょう。
遺伝
生物において遺伝と聞くと、遺伝計算を思い浮かべる人が多いとは思います。しかし、実際多くの問題集では計算がメインであることが多いです、
ただ、東大生物ではそのような安直な計算問題よりは、「遺伝とはどういう現象でどのような機構で起こっているのか」ということが理解できているかどうかを実験の考察を通して聞いてくることが多いです。
とはいえ教科書の範囲を逸脱することはないため、教科書を完璧に理解するという方針であればなにも問題ありません。特にこの分野では現象の理解が非常に重要となってくるので、資料集なども参照しつつ理解を深めていきましょう。
生殖と発生
遺伝と重なるところもありますが、生殖と発生の分野も東大生物では頻出となっています。
こちらも同様に、基本的には教科書の理解でよいのですが、東大生物においてはこの分野で知識系の論述問題が出されやすい傾向にあります。
自分の言葉で用語や現象の説明ができるように意識して教科書を読むのはもちろんのこと、別途問題集を使って論述問題の強化をするのが必要になります。
東大生物の得点力を上げる勉強法
東大生物についての基本的な情報を確認した上で、次は東大生物の具体的な勉強法について紹介します。
筆者は勿論、多くの生物選択の東大生の意見も反映させていますので、かなりおすすめです!
教科書を極める
すでに述べた通り東大生物では検定教科書の範囲を超えた用語や現象名などは出題されることがなく、教科書を完璧にすることが知識面での第一歩となります。
しかしながら、多くの高校(特に進学校で多いと感じます)では、授業は独自のプリントで進められ、教科書は配布されたらもう二度と開かれないといったことが少なくないようです。もちろん独自のプリントでの学習の効果を否定しているわけではありません、教科書を1度も見ずに東大入試に臨むという状況に対して危機感を持ってほしいというわけです。
人それぞれ学習方法に差が出るのは当然ですが、知識面で最後の仕上げをしようという段階では必ず、1度教科書を開き、穴がないか隅々まで確認してみましょう。端におまけのように載っている参考ページや、実験のページも飛ばすことがないようにしましょう。
東大生物の作問者としても受験生全員が知っているような知識だけでは差がつかないことは分かっているはずなので、さらっと教科書の端に書いてある内容を出したくなるはずです。(実際そのような、教科書に載っているけどおまけに見える箇所からの出題は多いです。)
東大生物は難しそうだから教科書では太刀打ちできないだろうと思っていた方も多かったのではないでしょうか?意外と盲点になりがちな教科書についてでした。教科書を上手く使って東大生物攻略の基礎をつくりましょう。
資料集を上手く活用しよう
多くの高校で、生物の授業を選択していれば、教科書とともに資料集が配られると思います。
ただみなさんは資料集を有効活用できているでしょうか?資料集の情報量の多さに圧倒されて、読むのを諦めてしまった人が多いのでないでしょうか?ここではそんな扱いの難しい資料集の使い方を紹介します。
資料集とは教科書より詳しい説明や図表が載っている参考書のことです。しかし一方で、受験生物、特に、東大生物という面では詳しすぎる内容も多く載っており、扱いが難しいと感じる人も多いはずです。もちろん生物という科目が好きな人であれば趣味の感覚で読めると思いますし、それが出来ればそうするに越したことはないですが、やはり難しいものがあります。
そこで資料集を生物の理解を助ける補助として使うやり方でやってみましょう。たとえば授業や教科書を読んでいるときにどうしても理解しにくいと感じる場面があるかと思います。そんなときに、なあなあにしてしまうのではなく、資料集の中から自分がわからない分野を目次から探して、詳しい説明や図表などを参考にすることで理解の助けになるはずです。
このように使えば、詳しすぎる説明ゆえにどこを読めばいいのかわからない人でも有効に資料集を使えるはずです。是非この使い方を参考にして、自分なりに上手く資料集を活用しましょう!
過去問は最大の問題集
東大生物の特徴である考察問題で、情報処理能力が必要であるということはすでに述べた通りですが、残念なことに他の大学の過去問や問題集では東大生物らしい考察問題がなかなか載っていません。
したがって、東大生物を受ける受験生にとっては、東大の過去問でしか情報処理の練習がしにくい状況となっています。受験科目のうち生物に関しては持っている過去問を全て使って最大限に活用しましょう。
論述問題の対策をしよう
東大生物では論述問題が多く出題されますが、その対策に何をやったらいいのかわからず、放置している人も多いのではないでしょうか?
しかし、論述対策なしに東大生物の点を伸ばすことはできません。そこで筆者も実践していた方法を2つ紹介します。
論述問題が載っている問題集を使う
問題集を使うのがもっとも楽にできる方法なのではないでしょうか、のちに紹介するセミナーなども良いでしょう。他にも論述問題メインの問題集などもあるようなので試す価値はあると思います。
また、問題集を使う上でのおすすなのですが、答えの文章の真似をしてみるというものです。
国語とは違って、生物の知識論述では特に、同じような問題が多く出題されます。そのような時に無理に自分の表現に固執するのでなく、問題集の答えにある表現を真似することでうまく得点を伸ばせるケースが多いです。
添削をしてもらう
やはり論述問題ですので、自分の書いた解答が生物の知識的に正しいのかという判別がつかないことが多いはずです。
もちろん自分で調べてみるというのは非常に大事ですが、ピンポイントで教えてもらえるという点で便利ですので添削をしてもらうというのがおすすめです。
塾に通っていれば塾でいいですし、もし可能であれば高校の先生などにお願いするのも良いでしょう。
東大に受かる人と落ちる人の違いの1つに、添削指導を受けてきたかどうかというのがある。 東進のデータによると、添削指導を受けた人とそうでない人で合格率が20%も違うことが分かっている。しかし、 […]
東大生物対策におすすめの参考書・問題集
最後に合格者が東大生物を受験するに当たってよく使っていた参考書・問題集を紹介します!
過去問
一般的に言う問題集とは少し違うかもしれませんが最後の仕上げに上手く使ってほしいという意味で過去問を挙げておきます。
東大生物特有の考察問題の雰囲気は過去問でしかわからないということがあり、その傾向は他の科目に比べて顕著ですので、過去問は必ず解きましょう。
また過去問の使い方ですが、本番に合わせて選択した2科目を通しで時間を測って解くことをおすすめします。すでに述べた通り、東大の理科は2科目を合わせて解く必要があり、特に生物受験生では論述問題が多い影響で、時間が短く感じることが多いです。
「理系で東大を目指しているが、化学に対してどう対策をしたら良いかわからない」「地方に住んでいて東大対策の情報が入ってこない」といった悩みを抱えてはいませんか? この記事では、今年東大に合格した理系東大生の筆者が東大[…]
そのため東大模試だけでなく自分で学習する際でも時間配分の調整などを試す意味で過去問が重要です。
東大生物を受験する上でもっとも難しいとさえ言える時間配分は、他の問題集では決して試せないものであることを考えると過去問の重要性がわかると思います。
考察問題の練習及び時間の使い方の練習に過去問をにガンガン使っていきましょう!
セミナー生物基礎+生物
有名問題集であるセミナーの生物編です。
こちらをおすすめするのは、東大生物でも必ず出題される知識系論述問題が多く載っていて、レベルもちょうど良いものとなっているからです。
大森徹の最強講義117
こちらも知っている人が多いのではないでしょうか?
駿台の有名講師である大森徹先生が書かれた参考書兼問題集といった形式のものとなっています。
ただ内容はかなり難しいものですので、初学者がいきなり手をつけるというのはやめて、教科書などで知識面はある程度固まっていると思えたら、はじめてみるのがよいと思います。
問題集というだけではなく、教科書よりも詳しい説明が書いてあるので、レベルアップした参考書としても使えるはずです。是非使ってみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は東大生物の対策法やおすすめ参考書について、現役東大生から見たリアルな情報を紹介しました。
東大生物は選択者が少ないだけに世間で正しい情報を得にくいため、なかなか全体像をつかめず苦労している受験生も多いのではないでしょうか。
この記事を参考にして東大生物を攻略していただければ幸いです。